といろはお側にいたいだけ。といろはただ隣に居れたらいいのです。
愛しいかたと結ばれなくて、キラキラ光る泡になりたいのです。

それはどれほど美しいものでしょうか。
昔父様から頂いた名前も知らないお空の蒼い蝶蝶のようなきらめきのように綺麗なのでしょう。

といろはただ綺麗に死ぬ生き物になりたいのです。
汚い地面を歩く人ではなく、青くきれいな海を泳ぐ魚になりたいのです。
ですが人は魚に成ることはできません。
ならなにか、人魚になればよいのです。

水面に浮かべば綺麗に輝く鱗、瞳から落ちるそれは綺麗な宝石になり、歌う声は音となり海面をゆらす波となる。
といろは綺麗な生き物になりたいのです。

ですが、私は足があり、汚い地面を歩き、水面のない世界で生きるのです。
嗚呼、なんと地獄。
こんな足がなければと包丁を向ければただ赤い血が吹き出すように辺りを染め上げます。
ただ、ただ、それが悲しくて私は涙がとまりません。
ですが、いくら泣いてもわたしのそれはきれいな宝石にはならず、頬を伝う雫にしかならないのです。

海にはいれど傷だらけの足は上手く動かずにしずむばかり。嗚呼憎らしい、この足はろくに浮かせてもくれないのです。

どれほど母様と姉様たちから罵られてもどれほど兄様方に殴られても、一色兄様や二色くんがいて優しくしてくれるから幸せ。
でも、人魚になれないこの世界はどれほど悲しいものか。

陸に上がってしまった人魚には、もう幸福などない。
(嗚呼、喜劇)